過失割合とは、交通事故におけるお互いの過失(不注意)の度合いを割合で表したもの、のことをいいます。
例えば、「信号待ちで停車している被害者の四輪車に、後方から進行してきた加害者の四輪車が追突した」というケースでは、被害者は適法に停車していただけですから「何も悪くない」、「過失ゼロ割」であり、加害者側が「過失10割」となります。
では、「Aさんの自転車が道路左側を進行していたら、道路左側の駐車場からBさんの四輪車が出てきて、出会いがしらに衝突した」というケースはどうでしょうか。
この場合、基本的には「路外から進行してきたBさん側が十分注意すべきだった」ということになりそうですが、Aさん側も「前方を注意してYさんが入って来るのに気付くべきだった」と言え、双方の不注意があいまって事故が発生しています。
こういう場合、事故発生についてどちらに何割の過失があるのか、すなわち過失割合を検討する必要が出てくるのです。
交通事故は、日々多数発生しており、その全てのケースについて、個々の裁判官が場当たり的に「過失割合」を決定すると、同じようなケースでも裁判官の好みによって結論が変わってしまい、不公平になってしまいます。
そこで、東京地裁の民事27部(交通事故を取り扱う部)の裁判官が中心となって、「典型的なケースについての過失割合についての認定基準」を作成し、全国の裁判所がこの基準に沿って判断をする、という実務が定着しております。
この基準は、東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(別冊判例タイムズ38号)として書籍化され、一般の皆さんも購入することができます。
さて、上記1のAさん(自転車道路直進)とBさん(四輪車路外)について、「別冊判例タイムズ38号」446頁では、下記のような基準を用意しています。
引用:東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(別冊判例タイムズ38号)p446,図299
道路を直進している自転車と路外から侵入した自動車の衝突としては、図中の㋑、㋺、㋩の3種類が考えられるところ、Aさんのケースは㋩に該当するわけですが、
自転車側=10パーセント 自動車側=90パーセント
の割合が基本の過失割合とされるわけです。
このような「基本過失割合」に、様々な「修正要素」を加えて最終的な過失割合を決定します。
例えば、表中に「Ⓑ頭を出して待機」とあるのは、「路外者がそろそろ出て来て、道路に少し頭を出して待機して発進した後、発進して事故になった場合」とされ、このような場合は「+10」即ちAさんの過失がプラス10パーセントとなります。
Aさんのケースで、「修正要素」が「Ⓑ頭を出して待機」のみであれば、過失割合は
Aさん=20パーセント Bさん=80パーセント
となります。
「別冊判例タイムズ38号」は、あくまで、「典型的なケース」を整理して分析したものであり、「典型的ではないケース」については書いてありません。
例えば、「お互いにバックしている四輪車同士の事故」などは、あまり典型的ではないためか、「別冊判例タイムズ38号」には載っていません。
そのように、「載っていないケース」については過去の裁判例を調査するなどして、「別冊判例タイムズ38号」に頼らず、独自に過失割合を検討し主張していく必要があります。
交通事故の被害者は、事故に対する自分の側の過失割合がどの程度なのかを、常に意識しておく必要があります。
治療費一つをとっても、被害者側の過失割合が大きければ、治療費の一部が被害者側負担になる可能性が出てくるので、健康保険等を使って、極力安くしていくことを検討することになります。
また、最終的な解決にあたり、過失割合に全く争いがないケースでは、加害者側との話し合いによる解決も考えられます。
他方、過失割合について主張が真っ向から対立し、大幅に食い違うような場合には、話し合いによる解決は困難です。
そのように話し合いができないケースでは、訴訟を提起して争うしかありませんが、そのような場面では、訴訟及び事実証明のプロである弁護士へのご依頼を検討された方が良いと思います。
このように、過失割合に争いがあるケースでは、弁護士への依頼をご検討いただく必要がありますし、実際に依頼されるかはともかく、まずは一度、交通事故に詳しい弁護士の法律相談を受けて、過失割合に対する見通しを立てておくべきでしょう。
ところで、被害者側に一定の過失割合がある場合、「被害者が人身傷害保険に加入しているかどうか」が非常に重要になってきます。
例えば、2で例示したような
Aさん=20パーセント Bさん=80パーセント
の過失割合において、Aさんの受けた被害が、金額にして1000万円だったと仮定しましょう。
もしAさんが人身傷害保険に入っていなければ、このケースでAさんは、Bさんから1000万円×80パーセント=800万円しか取ることが出来ず、「200万円分の被害については回復できなかった」という結果になってしまいます。
他方、もしAさんが人身傷害保険に入っていれば、自分の加入している保険会社から「人身傷害保険金」を受けることが出来ます。
この「人身傷害保険金」の金額は、多くの場合、裁判所基準の賠償額よりも安いのですが、それなりにまとまった金額を貰うことが可能です。
例えば、このケースで、Aさんが受け取った人身傷害保険金が、700万円だったと仮定しましょう。
この際、受け取った保険金700万円は、「Aさんの過失部分に対応する200万円」に優先的に充当されることになっています(※)。
残りの保険金500万円が、「加害者の過失部分に対応する800万円」の方に充当され、加害者の支払うべき金額は
800万円-500万円=300万円
となります。
つまり、Aさんは、人身傷害保険金700万円を受領した後、Bさんに対して、追加で300万円を請求することができるのです。
このようにして、Aさんは、
人身傷害保険金700万円+Bさんからの賠償金300万円=合計1000万円
を獲得できるというわけです。
このようなやり方を「人傷先行」と呼んでおり、当事務所でも、複数のケースについて「人傷先行」を利用し、「当方側にかなりの過失があるケースでの全額回収」に成功しているところです。
なお、上記の事例で、AさんがBさんに対する賠償請求を先行させた場合(賠償先行)であっても、加害者側から800万円取った後で人身傷害保険金200万円を回収できる可能性はあるのですが、そのためには、裁判上の手続を経ること、約款に適切な条項が入っていること、等の条件があります。
「賠償先行」で、裁判を経ない示談等の解決をしてしまうと、損をしてしまうかもしれない、ということをご認識いただく必要があります。
この項目の話は非常にややこしく、このページの記載で正確な説明を尽くすことは困難です。
とりあえず、被害者の方は
ということを頭に入れておいてください。
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