後遺障害逸失利益の計算にあたっては、「その後遺障害が、何年間、被害者の就労に悪影響を与えるのか」という期間の計算も重要となります。
このような期間を「労働能力喪失期間」といいます。
例えば、30歳会社員の被害者が「右手のこ指を失った」として第12級9号の後遺障害を認定された場合、この被害者は60代くらいまでは働くでしょうが、その間右手の後遺障害に悩まされるでしょうから、「労働能力喪失期間」は30年以上ということになります。
もっとも、その被害者が何歳まで働き続けるかは誰にも分かりませんので、「労働能力喪失期間」が何年であるのかは、非常に難しい問題です。
この問題について、赤い本では
としています。
つまり、一般的な日本国民が働く期間は、18歳から67歳までの49年間であると考えるわけです。
症状固定時が30歳の被害者であれば、その時から67歳までの37年間が「労働能力喪失期間」となります。
もっとも、上記の計算は、67歳を超える労働者の方の労働能力喪失期間の計算には使えません。
実際のところ、最近は67歳を超えるタクシードライバーの方やトラック運転手の方が珍しくないわけですが、そのような方々について、「貴方は67歳を超えているから後遺障害を負っても逸失利益はありません」というわけにはいきません。
そこで、
症状固定時の年齢が67歳を超える者については、原則として簡易生命表の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とする
とされています。
例えば、68歳のタクシードライバー(男性)の方が右手のこ指を失って第12級9号を認定された場合、68歳男性の平均余命は「16.98年」とされているので、労働能力喪失期間は2分の1にあたる8年ということになりそうです。
また、上記68歳の方との関係で、例えば66歳の方の労働能力喪失期間を「67-66=1年」に設定するとバランスを失してしまいます。
そこで、
症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなるもの労働能力喪失期間は、原則として平均余命の2分の1とする
とされます。
以上の2、3でご説明したような内容が、労働能力喪失期間の原則的な計算方法となります。
他方で、
労働能力喪失期間の終期は、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった認定がなされる場合がある
ともされています。
例えば、開業医や税理士などについて、通常の職種よりも長期にわたり稼働し得るとして、67歳を超える年齢までの労働能力喪失を認めた裁判例があります。
また、いわゆるむち打ち症による後遺障害第12級13号や第14級9号については、一生涯にわたり労働能力喪失が継続するとまでは考えられておらず、一定期間経過後には改善するものと考えられています。
このため
むち打ち症の場合は、12級で10年程度、14級で5年程度に制限する例が多く見られるが、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきである
とされます。
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