交通事故被害者が、加害者の契約している自賠責保険に、後遺障害の等級を認めてもらうためには、2つの方法があり、その内の一つが「被害者請求」です。
これは、自賠法第16条第1項に規定された、被害者から自賠責保険会社に対して「損害賠償額の支払をなすべきことを請求」の一環として行われますので、「自賠法第16条請求」とも言われています。
このような請求が受け付けられると、損害保険料率算出機構という組織の自賠責保険調査事務所において、後遺障害の調査が行われ、一定の基準の下に、等級の認定がなされることになります。
等級認定がなされた後、その等級に即した自賠責保険金が計算され、被害者の下に入金されることになります。
以上のような「被害者請求」と異なり、加害者の契約する任意保険会社が、自賠責損害調査事務所に書類を送り、等級認定を求める場合もあります。
これは、任意保険会社が被害者に対して賠償金にあたる金員を支払うことに先立って、事前に行われますので、「事前認定」と呼ばれています。
このような「事前認定」をしておくことにより、加害者側保険会社は、「この件では後遺障害○○級が相応しい」という判断ができ、それに沿って被害者側に「○○級の慰謝料として△△円を支払います」という提示が出来るわけです。
加害者側に任意保険会社の付いている交通事故事案では、被害者が「そろそろ症状固定を考えているが、後遺障害が残りそうだ」と言えば、保険会社の担当者が「では、後遺障害診断書を渡して下さい。当方で後遺障害の手続をしますから。」と提案して来ると思います。
被害者が後遺障害診断書を渡すと、暫くして担当者から「認定結果のお知らせ」のような書類が送られてきますが、これこそが「事前認定」の手続なのです。
被害者としては、自分で1の「被害者請求」をしても良いですし、加害者側保険会社に診断書を渡して2の「事前認定」をしてもらっても構いません。
「被害者請求」と「事前認定」では、いずれも「後遺障害診断書」や、通院中の「診断書」「診療報酬明細書」、レントゲンやMRI等の画像、等々を用いた書面審査が行われ(※1)、その限りでは違いはありません。
両者の決定的な違いは、「事前認定」では、加害者側保険会社からの手続になるために、「(加害者側の)保険会社意見書」という書類が添付されるという点です。
実は、この「保険会社意見書」には、被害者に好意的な意見が書いてあるとは限りません。
私が入手した、ある「保険会社意見書」には、当該被害者に後遺障害が認定されることが「容認できない」という趣旨の保険会社の意見が書かれていました。
要するに、被害者の希望する後遺障害の認定を妨害してきた、ということです。
保険会社は、そのような妨害を行うために「嘱託医意見書」等の被害者に不利な書類を添付することすらあるようです(※2)。
このように、「事前認定」では、保険会社による種々の妨害がなされる可能性が否定できませんので、被害者側がわざわざそのような危険なルートを選択する理由はありません(※3)。
他方で、専門家を通して「被害者請求」の手続を行う場合、「後遺障害診断書」以外にも、適切な障害等級が認定されるための医証その他の追加資料を収集し、これらをまとめた「被害者側意見書」と共に添付して申請することができますので、その点は「被害者請求」のメリットと言って良いでしょう。
もちろん、「いわゆる植物状態なので、誰がどのように申請しても必ず別表第1の第1級1号となる」ような場合に、わざわざ被害者請求をする必要があるか、という問題はあるのですが、障害認定が微妙な事案については「事前認定」ではなく「被害者請求」を選択するべきなのです。
※1 例外的に、顔の傷跡等の「外貌醜状」の障害では、面談調査が実施されます。
※2 私の見た「保険会社意見書」の書式には、添付書類のチェック欄にとして「嘱託医意見書」等の項目が挙げられていました。当然のことながら、被害者の等級認定が「容認できない」という意見の下に、それに沿った「嘱託医意見書」等が提出されることもあるのでしょう。
※3 なお、「被害者請求」であっても、損害保険料率機構から任意保険会社に「保険会社意見書」の提出を求める例があるとのことです。
もっとも、当事務所では独自に収集した医証を任意保険会社に見せずに被害者請求しておりますので、任意保険会社が有効な「保険会社意見書」を出せるかは疑問ですが…
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